


明るい時間が長くなってきましたね。
撮影した時間は18:15くらいです。
新緑も着々と進んできています。
そういえば、先日もお見えになられていたのですが、自家製天然酵母で国内栽培小麦だけを使用、さらに放射能検査まで行われているパン職人歴32年の方。
表参道近辺だと、ナチュラルハウスやクレヨンハウスにパンを卸されているとの事でした。
今度買いに行ってみますと言ったら、今日出しているので明日には陳列されていますとの事。これは食べてみたいと思い、さっそく見に行ってきました。

もう完全なる職人さんで、体の筋肉もパンをこねる時のままの発達のしかた。
最初にお見えになられた時にお話しした内容がとても印象に残っています。
「パンだけはスタッフには今だに任せられない」と。
その時私が感じたのは「見える部分を教えることはできるけど、見えないところの一番大事な所は中々言葉では伝わらない。」という事でした。
職人さんに対して、私のような人間が無粋に分かったようなことを言える立場ではないとは思いつつも、ある一つの例えとして近しい経験の話をさせて頂きました。
私が学生の時に、隣の席の仲が良かった女の子がまぁ出来が悪い。
そこでとある実習で「歯科矯正装置のワイヤー曲げ」というのがありました。
このワイヤー曲げ、色々な形をしたペンチのようなもので握って曲げたり、手で曲げたりして行くのですが、何しろ様々な曲線にピッタリ合うように、複雑な立体構造を大きいものだと一本の線で形作らなくてはなりません。
イメージできますかね?

何が難しいのかというと、例えば途中までピッタリ歯型に合っていたとしても、一度変な曲げ方をしてしまえばそこを起点に全てが合わなくなってしまうんです。
当たり前な話、変なことをしたところからその一番遠くは最大の乱れ幅になります。
っで、このワイヤー曲げの時に、隣の女の子が全然ダメで「ちょっとやってよ」と図々しく言ってくる。
ま、本当にイライラするくらい難しいんです。曲がったと実感があるくらいの力で動かしたら、その時点ではるかに曲がり過ぎ。
曲げようとしたところが思ったよりも 0.1ミリ 多く曲がってしまったとしたら、せっかくキッチリ合わせた他の部分も全てズレてしまう。一番遠くはミリ単位でズレてしまうわけですから。
だから「曲がったか曲がらないかの本当に微妙な領域の力をコントロールが出来るかどうかがポイントなわけ」と、この隣の席の女の子に言っていました。
それから5年後位に会ったときに「あの時の曲がったか曲がらないかのアドバイスが今はとても役にたっている」とのこと。
「あ・・あ、そう・・・。そんなこと言ったっけ?」というと「ちょっと人に偉そうに言っておいて」と怒られてしまいました。
そこで感じていたポイントと、パン屋さんの仰っていることが同じように聞こえたのです。
つまり人が目に見えて理解できている部分は、勉強をしたり聞いたりで理解ができる。
しかし、その目に見えきれていない領域をどれだけコントロールができているのか?そしてそこの部分は言っても教えてもダメで、自分で感じ取る学習をしなくては身に付きません。
そして分かって来ると「あのとき言っていた事だ」と気が付く。
ま、このパン職人さんにはそんな話をして、「見えていない所が分かるように、そこの声が聞こえるようにならないと難しいものってありますよね?」と言ったら「そう!そうなんですよ!」とご返答頂けたのが、なんか私も職人の入口には立てているんだなと嬉しくなりました。
また、実に誠実なパン職人さん。まさに酵母の声が聞こえている。
帰り際には手を合わせて深々と「ありがとうございました」とお辞儀をされます。
職人としてもおごりはなし。
「パンを焼いているのではなく焼かせていただいている」
ま、そんなことを思い出しながら、今日はこのパンを食べさせて頂きました。
うん。
これは美味しいですね。
