背骨や骨格のズレついて

 「骨盤がズレているから腰痛になる」「ストレートネックだから肩こりや頭痛になる」という見出しをよく目にすることがありますが、これらはさて、本当の事なのでしょうか?骨盤だけ一つをとっても、ネットで調べてみると、複数の症状の根本的な原因にされているのが多いようです。あるところでは「肥満体質を骨盤で改善する」とか、またあるところでは「放置しておけば椎間板ヘルニアやぎっくり腰になる」などと記されています。

 ならば逆に正常な骨盤」とはどの様な状態にあることを示すのか、まずそこから先に定義をしなくては、同じく「異常」の定義も分からないというのが世の常ではありませんか?この様に、単に「ズレている」という、極めてあいまいな表現に踊らされてしまうと、物事の本質を見失う恐れがあります。

 

  • 見た目のズレ

 ご自身で骨盤がズレているとおっしゃるかたへ「では、骨盤がズレていると仰るのはどの様な状態を指しているのか?」と私の方から問うてみると、主な答えは次の通りです。「右と左の高さが違う」「腰のくびれが左右で違う」「寝た時の左右の高さが違う」などなど。では、その次に「この状態は異常だと思いますか?」と聞いてみると「腰が痛いからまっすぐにしたい」とか「見た目が違うから異常だ」と答えられます。どれも正解ではありますが、どれも間違えでもあります。何故かといえば「もとから左右が違うのが正常な状態の人もいるから」です。実際に人の体を解剖し、骨や関節を露出してみると、まず左右対称の形(見た目)の人はおりません。そして関節も同じく、大きさから角度までが左右でそれぞれで違います。つまり、本来は生まれ持った体そのものが左右で違う動きをし、見た目も左右が違う人が大多数なのです。ですから、自覚症状として腰痛があるからという理由で「骨盤が見た目で左右が違うからそのせいだ」と、原因をそれに抱き合わせるのは、自己満足という部分では良いことかも知れませんが、その「見た目」が原因ではないことは多々あります。よって、骨盤の見た目のズレが、必ずしも腰痛や太り体質と関連しているとは限らないということです。

 

  • 動きのズレ

 では、見た目のズレが「ズレ」ではないとしたならば、本当の「ズレ」とは何か?そして、どの様にして検査をすればわかるのでしょう?レントゲンを撮っても結局は見た目重視になってしまいますし、本来の生まれながらの見た目のズレがどの程度なものかも不明です。そこで役立つのが「動き方を観察する」という方法です。最初にも記しましたが、ズレという定義の本質は、正常な状態からどれだけ逸脱しているかということです。では、正常というのはどういうものかというと、見た目ではない部分の「機能」が正常であるかどうかというところ。つまりこの場合、骨盤全体の機能を評価する必要があるわけです。骨盤には関節部分で可動する「関節の動き」があります。骨盤の構造は下図に示すように、仙骨と腸骨という骨が一塊にして「骨盤」と呼ばれています(厳密には股関節も重要)。この仙骨と腸骨で構成された関節を、名前の頭文字を取って「仙腸関節」と呼びます。関節に機能異常が無い場合(ズレがない場合)、この関節は左右であらゆる方向に綺麗な動きが可能です。またそれとは逆に、機能に異常がある場合には(ズレがある場合)、関節本来の動きが消失し、いわゆる硬くなってしまう習性があるのです。つまり、ズレているとされるものは、見た目ではなく、関節の動きの消失=機能の異常として見つけ出すことができます。

  • 機能の評価

 関節は可動性を有していて、ここに機能異常がある場合、関節は可動性を失う性質があるというところまで述べました。それらの具体的な例を示して行きたいと思います。関節は全身の頭から手足までどこにでも存在しますが、分かりやすい様に、ここでは指の関節で機能異常をご説明して行きたいと思います。

 

 左の人差し指を使って行きます。

 関節は、基本的に個々の形状に合わせた可動範囲を有しますが、それ以外の方向にも少なからず可動域を持っています。指の場合だと、通常は曲げ伸ばしの関節運動になりますが、写真の様に、側方への可動性も有しています。まず、固定を作った上で、黒矢印の方向へ力を加えると、関節は赤矢印の様に開く動きを強いられます。正常であればこの動きは抵抗はなく行え、痛み等も発生しません。重要な部分は、この関節の可動範囲は、自分の力で動ける範囲からさらに外にあるという部分です。言い換えれば、写真の様に、他の力を加えない限り、自力での筋肉の動きでは動かせない範囲の運動を評価するということです(他動運動範囲という)。

 

 逆も同じことを行います。

 正常な機能がある関節であれば、自力で動かせない範囲にも動きが存在します。よく、指の骨をボキボキと鳴らす人がいますが、この自力では動かせない範囲へ、意図的に外力を用いて押し込むことで骨が鳴るわけです。指のボキボキも、他動範囲に制限があるからこそ関節で音が発生するのです。

 図でまとめると、下記の様になります。関節の状態を把握するためには、自力で動かせる範囲から先の部分、つまり、他動的に動かせる「関節のあそび」の部分を評価します。機能状態に問題がない関節には、この「あそび」が必ず存在するからです。これは、全身にある関節にいえることであり、機能異常を起こした関節は、どこの関節であっても「他動運動範囲」に制限が発生します。

  • 機能異常の原因

 ここまでで、関節には自分で日常的に動かせる範囲(自動運動範囲)と、その先に他の力を用いて動かせる範囲(他動運動範囲)があることをご説明しました。そしてこの機能異常がある関節には、他動運動範囲(他の力で動かせる範囲)の動きが消失する性質があることを述べました。では、この他動運動範囲が何故消失するのかをここではご説明をして行きたいと思います。

 全身にある骨と骨の関節には、全てに神経が存在します。これは、脳が体の位置感覚や関係を把握する上でとても重要な働きをしている神経です。この神経機能が何かしらの形で鈍ってしまうと、関節の他動運動範囲が制限されてしまうのです。

 神経は、脳から脊髄を延ばし、この脊髄から背骨の部分でさらに両側に根を延ばして、筋肉や内臓に神経を張り巡らせています。つまり、筋肉は、脳→脊髄から更に枝分かれした神経によって支配されているのです。ですから、仮に上位であるこの「脊髄」や「脳」に異常が起これば、筋肉は動かすことが不可能になるわけです。ときより「筋肉の硬さが原因で不調を起こす」という治療院の宣伝文句を見ることがありますが、ここで述べた様に、筋肉の全ては神経によって支配されていることから、問題が生じているのは「筋肉が硬くなるから」ではなく、神経機能に異常があるから筋肉が硬くなるわけです(スポーツ選手など筋肉を酷使する場合には筋肉内に貯まる老廃物質が原因になることもあります)。よって、関節の他動運動範囲が消失する理由は、神経機能の異常により、筋肉に持続的な収縮命令が出されることによって、結果的に関節が動かされずに固まってしまったからです。

 ここでは、客観的に神経機能が誰でも見えるように、当院にあるインサイトディスカバリー(米宇宙財団/NASA認証)にて計測した画像をご紹介しておきます。

 上の画像は、当院で使われている分析器にて計測したものです。神経機能が鈍っているということは、神経によって動かされている筋肉や内臓、または自律神経活動も同じく鈍っているということになります。画像の赤い棒線が出ているところは異常部分を表します。一体何をもとに測定されているのかというと、この計測器で、背骨の両側の皮膚表面温度を読み取っています。なぜ皮膚表面の温度なのかと思われるでしょう?実は皮膚の表面温度の管理は、神経によって毛細血管や毛穴の閉じたり開いたりをすることで一定状態を保っています。よって、神経機能が正常であれば、背骨の両側に温度差が現れることはありません。つまり、この赤く棒線で出ている部分は、血管や毛穴のコントロールをする神経が鈍っている状態にあるということです。

 

 上の画像(ネッター解剖学アトラス 南江堂抜粋)は、背骨を上らから見た断面です。背骨の真ん中には脳から伸びた「脊髄」が格納されています。この脊髄は背骨の両脇から全身に神経を張り巡らせています(下の画像参照)。

 先に述べたように、筋肉(❷❸)、内臓(交感神経❶)、皮膚表面(❹)はこの神経活動によって支配されています。それぞれの背骨の分節で、連続的に同じ仕組みになっています。何故、皮膚表面温度が重要なのかというと、この神経の根本は同じ、すなわち皮膚表面の温度に異常がある場合、同じくして「筋肉」「内臓」にも神経機能の異常状態があると仮定ができるからです(皮膚表面温度と疾患との関連性がジョンズ・ホプキンス大学にて論文発表がされています)。ですから、例えば筋肉への神経機能が異常状態にあると、筋肉は正常な引っ張り能力を逸脱し、それに付く骨が引っ張られたり伸びたりして、正常位置からズレとして検出できるわけです。

 この様に、単に関節の動きがおかしい、筋肉が硬いというのは表面的な現象に過ぎず、関節の他動動運動範囲に異常がある場合には、内臓や筋肉といった部分に神経機能異常があることを表しているのです。


  • 結論として

 これまで、我々の手技療法は「効果がよくわからない」という扱いをされることが多くありました。なぜその様に言われているのかと私なりに考えてみたところ、「背骨のズレ」という概念だけが一人歩きして、それらを治すと「病気が治る」とか「神秘的な力で治る」とか、そういった印象を強く持たれている方が多いのが原因かと思い「背骨のズレ」とは一体何なのかという部分についてご説明をさせて頂きました。このズレのメカニズムを正し、正常な神経機能に戻すことが我々の仕事であって、そもそも医療とは少し違った部分にあるものです。

 例えば、病気や怪我をした場合、病院へ行って投薬や手術等の治療を受けます。しかし我々は直接的に患部への治療は行いません。何を行うのかと聞かれれば「どこに病気や怪我があっても、神経機能の異常を分析してそこを正しい状態にする」ということだけです。これによって、体が本能的に持った「恒常性(健康状態に戻ろうとする力)」を十分に発揮できる様にすることが目的なのです。

 私はかれこれ20年以上カイロプラクティックを職業としてきました。カイロプラクティックは、日本を除く先進国では、しっかりとした法的位置付けを持っています。特にアメリカでは診断権を医師と同等に有しており、日本における「民間医療」とは一線を画すものです。「病気ではないが、健康でもない状態」を扱う専門家であって、決して医師として患部に治療を行う仕事ではありません。ただ、体の神経機能の状態を整えることで、症状が改善されるものは沢山あります。更に深掘りしたい方は、他のページにある「本当は骨格のズレではない」をご覧ください。実のところ、体は精神や心理からの影響が強くあって、背骨がズレているかどうかという議論は、実はかなり浅い部分の話でしかありません。